分子内の原子が熱運動している様子を再現して最安定配座を求める方法です。
即ち、結合のひずみの力から、それぞれ原子の加速度を求めます。その結果、非常に短い一定の時間(通常フェムト秒, fs)の後のそれぞれの原子の位置がニュートンの運動方程式に従って求めます。求められたそれぞれの原子配置に基づく分子全体の立体エネルギーを求め、新しい配座とします。新しく得られた配座のそれぞれの原子の歪みの力を求め、再び一定時間後のそれぞれの原子の位置を求めるという操作を繰り返し、分子の熱運動をシミュレーションします。 計算結果の時間と立体エネルギーとの相関を作成すると、立体エネルギーは高くなったり低くなったりを繰り返したプロットが得られます。シミュレーションで設定する温度によっては、分子は配座の遷移状態のエネルギー障壁を乗り越えて、別の配座へ向かうことが出来ますので、ある程度の時間をシミュレーションすることによって安定な配座を導きだすことが出来ます。通常10000から100000ステップ以上をシミュレーションします。立体エネルギー-シミュレーション時間のダイアグラムの最小地点の配座が再安定配座の候補となります。
通常の分子の場合、比較的容易に最安定配座が求まられますが、温度、ステップ数など、経験の必要な要素もあります。設定温度が低いと配座回転障壁を乗り越えづらくなり、シミュレーションに必要なステップ数が増大します。また、設定温度が高すぎると、原子の移動距離が大きくなりすぎて、パラメータがカバーしている距離を越えてしまい、分子はコンピューターの中で分解してしまいます。ステップ数が少なければ、最安定配座に到達する前に計算が終了してしまいます。
この方法は、結晶構造が与えられているタンパク質の溶液での構造を予想するときなどに威力を発揮します。X線結晶解析で得られる構造は、不安定な配座ではないことは明らかですが、結晶格子の中で安定かつ結晶を作りやすい構造を取っているものの、必ずしも最安定配座とは言えません。そこで、分子動力学法を使って、特に側鎖の立体配座を振動させて最安定配座を求めます。タンパク質のような巨大分子の計算では溶媒としての水分子も考慮に入れる必要があり、計算も極めて大掛かりになります。
得られた構造は、最安定構造とは限りません。得られた構造を通常の方法で再び最適化することにより精密な最安定構造が得られることになります。
このような計算では、スーパーコンピューターを必要としますが、コンピューターの発達と記憶容積増大した現在、通常の有機化合物の場合、パソコンでもさほどストレスを感じずに実行できるようになりました。分子動力学の機能はChem3D(Cambridge Software)やHyperChem(Hypercube Inc.)などのパッケージソフトにも組み込まれています。この方法は、計算時間の速い分子力学法以外用いられません。
初期配座発声法でも同様ですが、分子力場計算では計算は速いものの、信頼性という点では問題が残る場合が多いのも現実です。分子動力学法で得られたエネルギーの低いlocxal
minimum構造も含めた最安定配座候補をより精密な方法、たとえばハートリーフォック法で再最安定化させることにより、より真に近い最安定配座を求めることができます。
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